
認知症の疑いがある親の不動産は売却できる?家族が知っておくべき手続きと判断ポイント
高齢の親が不動産を所有しており、売却を検討しているけれど、「もしかして認知症かも?」という不安がある場合、どのように手続きを進めるべきか悩むご家族は少なくありません。
不動産の売買契約には「意思能力(=契約内容を理解し、自分の意思で判断できる力)」が必要です。
つまり、所有者が契約時に認知症で意思能力がなかったと後で判断されると、その契約自体が「無効」とされる可能性があるのです。
今回は、「まだ認知症かどうかわからないけど不安がある」という状況における不動産売却の手順と、家族として押さえておくべき注意点について、わかりやすく解説します。
1. 「認知症かもしれない」と感じた時にまずすべきこと
● 医療機関での診断を受ける
不動産の売却を進める前に、まずはご本人に意思能力があるのかを確認することが最優先です。
この確認のためには、医師の診断を受けることが必要です。特に、精神科・神経内科・もの忘れ外来などの専門医による「認知症の有無とその程度の診断」が重要です。
認知症と診断されても、その程度(軽度・中等度・重度)によって意思能力の有無は異なります。軽度であれば売却に支障がないケースも多いため、医師の意見書や診断書が重要な判断材料になります。

● 家族だけで判断しない
「最近、物忘れが多い」「話が通じにくい」などの印象だけで「認知症」と判断するのは避けましょう。家族の主観による判断はトラブルの原因になりかねません。
2. 売却を進める場合の選択肢と流れ
以下は、認知症の疑いがあるケースでの不動産売却の主な進め方です。
ケース①:意思能力があると診断された場合
この場合、通常の売却手続きが可能です。ただし、以下のような注意が必要です。
診断書の取得: 売却後にトラブルにならないよう、「意思能力がある」との診断書や意見書を医師から取得しておくと安心です。
同席やサポート: 契約時には家族が同席して、必要な説明が確実に行われていることを確認するのが望ましいです。
不動産会社の選定: 高齢者との契約に配慮がある業者を選ぶと安心です。
ケース②:意思能力がないと診断された場合
この場合、ご本人が直接売買契約をすることはできません。代わりに、以下の法的手続きを踏む必要があります。
■ 成年後見制度の利用
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な方に対して、家庭裁判所が「成年後見人」を選任し、財産管理や法律行為を代行する制度です。
【手続きの流れ】
家庭裁判所へ成年後見の申立て
医師による鑑定(必要な場合)
後見人の選任
後見人が不動産売却の手続きを行う(裁判所の許可が必要)
※注意:不動産の売却は「重要な財産行為」にあたるため、たとえ後見人であっても、裁判所の許可が必要です。

3. 売却に関するよくある質問
Q1. 判断能力がグレーな場合、どうすればいい?
A. いわゆる「グレーゾーン」の場合、診断書をもとに専門家(司法書士・弁護士など)と相談しながら慎重に判断します。無理に進めると後から契約無効になるリスクがあるため、客観的な証拠(診断書や説明時の録音など)を残しておくのが安全です。
Q2. 家族が代わりに売却手続きすることはできる?
A. 原則として、所有者本人が手続きを行う必要があります。ただし、「任意後見契約」や「代理権付きの信託契約」などを事前に結んでいる場合は、家族が代行可能です(ただし事前準備が必要です)。

4. 売却にあたっての注意点
● 相手方(買主)も慎重
高齢者が不動産を売る場合、買主側も「契約は本当に有効なのか?」と懸念することが多いです。診断書や医師の意見書があると安心材料になります。
● 高齢者保護の視点を忘れない
売却が「本人にとって不利益な契約」と見なされた場合、契約自体が後に取り消される恐れもあります。たとえば、市場価格より大幅に安く売却したようなケースは特に注意です。
5. 専門家のサポートを活用しよう
高齢の親の不動産売却をめぐる問題は、法的にも感情的にもデリケートです。トラブルを防ぐためには以下の専門家と連携するのがおすすめです。
司法書士・弁護士: 売却時の意思能力の確認、契約手続きの代理
不動産会社: 売却の仲介・査定
ケアマネジャーや地域包括支援センター: 医療・福祉との連携支援
医師: 診断書の作成・意思能力の判定

まとめ
「認知症なのかどうかわからない」という状況での不動産売却は、慎重に進めるべき重要な手続きです。
まずは医師の診断を受け、意思能力の有無を明確にすること。その上で、必要に応じて成年後見制度の利用や、専門家への相談を通じて、法的リスクを回避しながら手続きを進めましょう。
家族にとっても本人にとっても納得のいく形で、大切な資産である不動産を安全に処理するためには、専門家との連携と適切な判断が欠かせません。
